マニア歓喜!?のスクラム座談会。
川原レフリー×フロントロー(庵奥翔太・山口達也・三宮累)
2020年1月開幕の新シーズンへ向けて始動しているNTTコミュニケーションズ シャーニングアークス(以下アークス)。
トップリーグ初制覇を目指すチームにあって、大きな武器となっているのがスクラムです。
スクラムは両軍フォワードが8対8で組み合いますが、中でも最前列でスクラムを組む「フロントロー」と呼ばれる3人の働きは重要。
背番号1、3番のプロップ(PR)、そして背番号2番のフッカー(HO)です。
今回は、元アークス選手の斉藤展士スクラムコーチの指導のもと、日々厳しいスクラム練習に励んでいる4年目のPR庵奥翔太、3年目のPR三宮累、ルーキーHO山口達也の3選手が参加!
そして、アークスの普及担当でもある川原佑レフリーも参戦!レフリーの観点から、2019年7月に導入されたスクラムの新ルールについても解説して頂きました!(取材日:9月5日)
2019年7月にスクラムのルール変更が行われました。首の負担減を目的として、フロントロー(FW第1列)の頭が、相手の首や肩に触れてはいけないことになりました。
川原佑レフリー(以下川原):スクラムでクラウチしてバインドした時に、特にフッカーの選手が「相手の肩に頭を乗せてギャップを作る」ということをやっていたのですが、これではフッカーの首に負担がかかり、負傷のリスクが高いというところで、フロントロー選手を守るために、頭を相手の肩に乗せてはいけません、というのが今回のルール変更です。
怪我のリスクを減らすことが目的なので、普段であればルール変更はある程度時間を作ってから実際に運用する形ですが、今回はすぐに適用、という形になりました。レアなケースです。
選手の立場から見て、今回のルール変更をどう受け止めていますか?
庵奥翔太(以下庵奥):自分たちがやってきたことを出せるようなルール変更です。
トップリーグカップ最終戦のNTTドコモ戦から適用されて、そこでもしっかりとヒットもできていたので、すぐに対応できたのかなと思います。1週間しか準備ができなかったのですが、スクラムトライも獲り手応えはありました。
三宮累(以下三宮):僕らのスクラムはヒットで相手を崩す、という形なのですが、新しいルール変更によって、よりヒットでの優劣が出やすいようになりました。
僕らはヒットに自信があるので、ルール変更は味方につけているのかなと思います。
山口達也(以下山口):フッカーとして、前のルールだとバインドの時点で(力を)掛け合って、掛け負けると入られる、という感じが多かったです。今は意識するポイントが変わって、やりやすいなと感じています。
川原:みんな結構ポジティブですよ。
展士さん(斉藤スクラムコーチ)やコーチも含め、「うちに有利になるからもっとやれるよ」みたいな雰囲気になってくれたので、僕としてはちょっとホッとしたというか(笑)
基本的にルールが変わった時に文句を言われるのは僕たち(レフリー)なので。僕は決めていないんですけど(笑)
庵奥:(山口選手へ)首の負担はどう減った?
山口:掛け合いがなくなったので、今まで練習後とかめっちゃ首が痛くなっていたんですけど、それが減りました。
庵奥:試合では、実際に(頭は)相手と当たらない?
山口:本当に当たらないですね。髪の毛が少し触れているくらいか、本当に当たらないくらいです。
庵奥:山口はそっちの方がいい?
山口:僕はそっちの方がヒットで勝負できるので、やりやすいですね。
庵奥:レフリーは新しくルールが変わって見方は変わりました?
前はここを注意して見ていたけど、新しいルールになってここ見るようにしている、とか。
川原:一番は頭が相手のフッカーに体重がかかっているかどうか、というところは見にいくところ。
ただ、やっぱり距離が離れることによって落ちるケースがある。高さとか、もう少し足を詰めないと伸びきってしまうというケースも多く見られるので、そこは注意して見なきゃいけないかなと。
庵奥:確かに。それはありますね。
川原:距離を取ることによってヒットが強くなって落ちる場合もあるから、そのリスクもあるんじゃないか、とか。
三宮:佑さん(川原レフリー)としては、どっちが危ないと思いますか?
いまヒットスピードが出て、すごい勢いで落ちるじゃないですか。
川原:見た目としてはボン!と落ちるから「大丈夫?」と思うけど、(山口選手の)首が痛くなるとか、そういう話を聞くと、以前のものも止めたほうがいいかなと。どっちがフロントローとしては危ないのかな?
三宮:今の方が結構怖いですね。行く時はいきそう。
庵奥:確かに勢いよく落ちた時は、今の方が危ないですね。
という事は、スクラムは――
川原:結局危ない(笑)
庵奥:ノーコンテスト(笑)
川原:昔は「クラウチ」「タッチ」「ポーズ」で、バインドもせずにガシャーン!と当たっていたのを考えると、良くなっているのかなとは思います。
アークスはスクラムを徹底的に強化しています。斉藤スクラムコーチが主導する練習はやはり厳しいですか?
庵奥:時間を空けずにどんどん組むという練習があって、足もだんだん動かなくなってきます。
その練習は結構しんどいですね。でも試合より練習の方がしんどくないとダメなので。
三宮:でもしんどいものはしんどいですよね(笑)
庵奥:スクラム練習で「楽やな」と思ったことは全然ないです。
ただ、練習した後にフロントローで筋トレをプラスアルファでやるんですが、最初のうちは結構「うわー」と思っていたんですけど、何ヶ月か経って筋トレがなかったら、みんな「今日ないの?」みたいな(笑)
今はみんな自主練で、腹筋などをやっています。良い文化になっているんじゃないかなと思います。
川原:絶対にバックスはフロントローじゃなくて良かったと思っているはず(笑)
きつい練習を見て。でも、フロントローの結束力はすごいなと。リスペクトされるべきポジションだなとは、みんなが思っていると思います。
山口:筋トレが一番きついですね。大学ではあまり筋トレをしなかったので。あとメンタル的には、入ってすぐなのであまり先輩達と一緒にうまく組めることができず、「外で見ておけ」とかいろいろ言われて、悔しい思いをしました。それでメンタルが、展士さんのせいでイキました。
庵奥:「せい」って(笑)
山口:でもそのおかげで、今は並み程度には組めるようになってきたと思います。
三宮:僕も1年目に展士さんに鍛えてもらいました。
あの人の凄いところはきついメニューを「やれ」と言ってやらせるだけじゃなくて、自分も入って筋トレのメニューを一緒にやるんです。強いられている感じはなくて、一緒に頑張るというか、横に立って「行くぞ」みたいな。一緒にやってくれるので。すごく良いコーチだなと思います。
庵奥:めっちゃ褒めるやん。
川原:(ゴマをする仕草)
三宮:思ってますよ、ホントに(笑)
僕も一回、本当に追い詰められたんですけど――。
庵奥:一回どころちゃうやん(一同笑い)
三宮:いや、“毎日”追い詰められてるんですけど、やっぱり望みがない選手に対しては時間を割かないのかなと思うので。
庵奥:ポジティブ!
三宮:そう思わないとやっていられないところもあるので(笑)
庵奥:ただ、本当にフロントローの事をめちゃくちゃ思ってくれているコーチですね。
プロップとフッカーのFW第1列(フロントロー)ですが、基本的にはどんなタイプの人たちですか?
庵奥:打たれ強いと思いますね。
三宮:間違いない。
川原:普通はやってられないですよ(笑)
本当に文句を言わないですね。黙々と痛いことをやって。
三宮:文句を言っても結局はやる、という感じですね。
山口:やっちゃいますね。
庵奥:バックスがノックオンをしても、僕らがスクラムを組むわけじゃないですか。
だけどバックスから文句も言われる。バックスのストレス発散は僕らなのかなと(笑)
川原:目立たないポジションですよね。スクラムでも、ボールが出てきて当たり前みたいな。
一番大変なのに、一番褒められないポジションなので、もっと注目をされるとより良いかなと思います。
だから、褒められ慣れてない。
庵奥:それはある。
川原:だからスクラム崩れて次が上手くいった時に「さっきのスクラム良かったです」と言ったら、次は8割方崩れない。
三宮:俺らは手のひらの上で転がされてる。
庵奥:単純なんで(笑)
川原レフリーは、フロントローのこうしたスクラムに懸ける想いや努力を知ることで、スクラムに対するレフリングに変化はありましたか?
川原:以前はどちらかというと「正しく判定しよう」「笛を吹こう」という考え方だったんですけど、やっぱりNTTコムに入って、「ボールを投入されて、どちらかにボールが出てくるようなスクラム」――反則ではなくて、反則をさせないように、と考えています。
彼らはボールを投入されて、押して自分たちのボールが出てくる、もしくはゴール前だったらスクラムトライを取りたい、という思いがあると思うので、そこで僕が介入をして笛を吹くよりは、「どちらも崩さずにボールが出てくるのが1番ベスト」と思っています。そこは考え方が少し変わったかなと思います。
今年6月開幕のトップリーグカップ2019は、プール戦で4勝1敗。スクラムという視点で振り返ると?
【トップリーグカップ2019プール戦結果】
(第1節)●24-31 東芝ブレイブルーパス
(第2節)○57-6 宗像サニックスブルース
(第3節)○67-14 九州電力キューデンヴォルテクス
(第4節)○31-19 ヤマハ発動機ジュビロ
(第5節)○36-6 NTTドコモレッドハリケーンズ
庵奥:ヤマハ発動機戦は(マイボール)獲得率が100%でした。
ファーストスクラムは「今日はいい感じに決めるんじゃないかな」と思ったんですけど、僕自身そこから崩されて、やっぱり自分の力不足をヤマハさんに感じさせられました。
三宮:僕もヤマハ発動機戦になっちゃうんですけど――僕も最初は良いイメージだったんですが、一貫して相手に対して優位に立つことができなくて、ムラがありました。
獲得率は100%でしたが、手放しで喜べる感じではなく、学べることもあったかなという感じでした。
山口:やっぱり東芝戦です。トップリーグの試合は初めてでした。
練習試合で組んだ相手よりもダントツに強くて、僕の中では、ヤマハ発動機さんよりも格段に強かった相手でした。
ルーキーの山口選手の成長はどうですか?
庵奥:入ってきた時と今では(スクラムの)組み方が違いますね。
僕は1番なんですが、最初は1番で横に入ったら肩の位置も全然フィットしなかったんですよ。
今は合いますし、全然違いますね。
川原:(山口選手を見て)めっちゃ嬉しそう!(笑)
山口:褒められて、嬉しいです。
庵奥:嬉しないやろ。(一同笑い)
三宮:確かに、フィット感めっちゃ増した。組みやすい。
庵奥:(山口選手へ)立命館はスクラム強かった?
山口:はい。明治と若干同等でした。
川原:“若干同等”って?(笑)
庵奥:じゃあ、関西ではスクラムは京産大と立命大、みたいな。
山口:関西では京産大に押されてないです。
関西ではどこにも押されてないです。・・・押されてないです。
三宮:押すね、その言葉を(笑)
川原:マルコム・マークス(現役南アフリカ代表。世界最強フッカーと評判)が来るのは楽しみですけどね。
ライバルになるし。
山口:いけるように、頑張ります。
庵奥:おおー(笑)
川原:「マルコム、ちょっと足の使い方悪いんじゃないの」とか言って欲しい(笑)
山口:言いたいですね(笑)
でも一番はやっぱり、楽しみですね。世界で一番すごい人が来るというのは良い経験にもなります。
練習でスキルなどを盗めるチャンスだと思っているので。ちょっとでも近づいて、徐々に良い感じになれるように頑張りたいです。
2020年1月12日(日)に開幕戦を迎える「ジャパンラグビートップリーグ2020」の対戦日程※が発表されました。5か月間で15試合の総当たり戦によって王者を決めます。
※対戦日程はこちら。
庵奥:自分たちのスクラムを組み続けるということが1つの目標ですし、課題でもあると思います。
三宮:自分たちのやれることをムラなく、しっかり完遂するということが僕らにとって大事なこと。目指すべきところです。
山口:僕も一緒です。展士さんの考えるスクラムが一番強いと信じているので、そこは自信を持って挑んでいけたらなと思います。
川原:ずっと展士さんは「日本一のスクラムを組もう」という話をしていて、やっている事は全然ブレていないなと思います。だからこそ、キツいことをやってもフロントローはついていっているのかなと思います。
あと、展士さんが言っているのは「正しくスクラムを組む」ということ。まっすぐセットアップして、まっすぐ組んで、落とさずに組む。相手が落としてきても「落とすな」と怒るんですよ(笑)
すごくかわいそうだなと思いつつも、レフリーとしては「すごくいいな」と思います。そういうスクラムを組み続ければ、絶対に日本一になれると思っているので、僕はそこに対して少しでもサポートできたらなと思っています。
川原:フロントローの選手は日本一のスクラムを目指して練習しているので、そこをしっかりサポートしていきたいなと思います。僕としては、レフリーとしても、お客さんもスクラムが崩れるところは見たくないし、選手たちも何回も崩れることは望んでいることではないと思うので、そうならないようなレフリングをやっていきたいと思います。
レフリーは迫力あるスクラムを一番近くで見ることができます。スクラムはラグビーの大きな一つのパーツだと思うので、ぜひスクラムに注目して欲しいなと思います。
庵奥:僕は怪我なくシーズンを終えるという事と、スクラムが勝利の要因になるような存在になる、ということです。新しいルールも味方にするので、NTTコミュニケーションズのスクラムを楽しみに待っていて欲しいです。
三宮:スクラムはひとつ武器になってきているので、この武器をさらに磨きあげて、チームが日本一になったときに「あのスクラムがあったから」と言ってもらえるようなスクラムを組みたいです。
シーズンに向けてもっと磨き上げていくので、相手を蹂躙するNTTコムのスクラムを楽しみにしていてください。
山口:外国人選手も入ってくる中で、ひとつでも多くの試合、多くの時間に出場することが目標です。
僕らの目標である日本一のために、まず日本一のスクラムを、全部の試合で証明していけたらなと思います。
スクラムの魅力は、見てもらったら分かると思うので――グラウンドで、お会いしましょう。
三宮:最後締めた。
川原:締めたね~。
庵奥:いいね。上手く締めた。
スクラムへの熱い想い、多大な努力を明かしてくれたフロントロー陣と、それを支える川原レフリー。
新シーズンで躍動するアークスのスクラムに、ぜひ注目してください!